大阪高等裁判所 昭和52年(行コ)8号 判決 1978年5月30日
京都市北区平野東柳町八
控訴人
禹明均
右訴訟代理人弁護士
高田良爾
同市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八
被控訴人
上京税務署長
山中清
右指定代理人
宗宮英俊
同
大河原延房
同
塩治正美
同
竹田二郎
同
前田全朗
右当事者間の所得税更正決定処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四六年九月一八日付でなした控訴人の昭和四五年分の所得税につき、その総所得金額を一五〇七万一五六〇円、分離短期譲渡所得金額を一〇二八万六五九〇円(裁決により減額された後の金額)所得税額を一二一四万二一〇〇円(裁決により減額された後の金額)とする更正処分のうち、総所得金額につき一一五〇万七一七八円を超える部分及び分離短期譲渡所得の全額、所得税額につき三九二万一二〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税四一万一〇〇〇円(裁決により減額された後の金額)の賦課決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
二、当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、それをここに引用する。
(控訴人の主張)
(一) 控訴人は、原判決添付の別表二の(1)ないし(4)記載のとおり、昭和四五年にパチンコ機械の入替(連発式)で合計三五六万四三八二円の譲渡損失を生じている。しかるに原審は、右の点の判断を回避し、乙第一号証(四五年分の所得税の確定申告書)裏面記載の三五六万四三八二円が、矢印を根拠に「分離課税の譲渡」欄の記載であると判断した。しかし、控訴人側で矢印を記入した事実はないし、仮に原審どおりとするなら、同裏面記載<9>欄の一一五〇七、一七八が一五〇七一五六〇と記載されていなければならないし、同表面「納める税金の計算」欄記載<9>欄も同様の記載となる筈であり、いずれにしても、原審の右判断は誤っている。
(二) 控訴人は、前叙(引用した原判決事実摘示)のように営業用に取得した土地(以下本件土地という)を、控訴人の意思とかかわりのない事由により、その目的に供しえなくなつたのである。かかる場合には基本通達(所得税基本通達の略称)三七-二七を適用して、本件土地取得のための借入金利息を取得費と認めるべきである。右通達の適用が肯定されるべきことは、前叙(引用した原判決事実摘示)のように基本通達前文の趣旨からいつても当然のことである。
(証拠)
控訴人は、甲第八、九号証を提出して、当審証人洪仁卓の証言(第一、二回)を援用し、被控訴人は、甲第八、九号証の成立は不知と述べた。
理由
一、当裁判所の認定、判断は、原審のそれと同一であるから、原判決の理由の説示をここに引用する(但し、原判決一二枚目裏二行目の「同洪仁卓」の次に「(原審及び当審第一回)」を、同一三枚目表八行目の「(乙第一号証)」の次に「一面」をそれぞれ加え、同裏二行目から三行目にかけての「から、この点につき」を「ことや、次に認定する洪仁卓の説明などに徴すると、格別」と改め、同裏末行から遡って四行目の「提出し」の次から、同じく遡つて三行目の「一一一二円であり」までを「たが、それによると譲渡損は六九万一一一二円になつていて、確定申告書の金額と相違していたこと、そこで右調査担当者がこの点を指摘したところ、洪仁卓は六九万一一一二円が正しく、」と改め、同一五枚目表五行目の「洪仁卓の証言」の次に「(原審及び当審第一回)」を加える)。そして、当審証人洪仁卓の証言(第一、二回)によつても、甲第八、九号証は未だ信を措くに足らず、もとより引用した原判決の理由の説示を動かすに足るものではない。
二、なお、控訴人の当審における主張に対する判断も、引用した原判決の理由の説示に尽きるのであるが、若干補足するに、営業用として取得した土地が、その取得者の意思とかかわりのない事由により、営業の用に供しえなくなつたため、もとよりその用に供することなく処分した場合に、その取得のための借入金利子の税法上の取扱いであるが、控訴人指摘の基本通達は、引用した原判決の理由の説示にあるように、法人税とのバランスを考慮して、自然人の事業用資産の取得のための借入金利子を、例外的に必要経費または取得費として承認しようとする趣旨であつて、あくまでも同土地が取得者により営業の用に供されたという事実を要件とすると解すべきである。控訴人指摘の基本通達前文も、右の解釈を控訴人の右事例にまで拡張すべき根拠にならないというべきである。
三、してみれば原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 鍬守正一 裁判官 石田真)